あおいろ自由帳

ライター / ヨガ教師 中村亜津美(あずみ)

妊娠35週目 「人生の縮図、あるいは社会の縮図」


私が出産を予定しているのは、様々な診療科を含む大きな総合病院の産科です。(超高齢出産のため、ハイリスク妊娠対応の産科でなくてはなりませぬ)なので、総合受付や総合待合、カフェスペース、売店は老若男女で毎日ごった返しています。

 

 

健診の日は、毎回少し早めに着くように行き、天気の良い日はお庭のベンチで一休みしたり、病院内のカフェでカフェインレスのソイラテを飲んだりしてから産科に向かいます。

 

当然このカフェにも、通院している患者さんやご家族、入院中の方など、本当にいろいろな方が来ます。今朝も早めについて一休みしていると、おそらく60代後半〜70代のご夫婦がとなりのテーブルに向かい合わせに座っていました。


旦那様

「今日はこの後上(の階)に行くの?」

 

奥様

「そうです。先週やった検査の結果を聞いて、お薬を出してもらいますよ」


旦那様

「検査はいつするの?」


奥様

「先週やったじゃないですか」


旦那様

「え?そうだったかな?忘れちゃったよ」

 


このやり取りが、延々と繰り返されます。

 

5回目くらいの「今日はこの後上(の階)に行くの?」で、奥様はお返事をしなくなりました。ご主人もしばらくだまるのですが、数分経つとまた同じ質問をします。


何回かスルーしてしばらくした後、奥様が小さなため息をついてから、また同じ会話を再開していました。


今日のこのお二人の状況が当てはまるかは分かりませんが、これくらいの段階だとご主人自身も混乱の最中だったりするかもしれません。急に時系列がわからなくなったり、今自分が何をしているかわからない、ということには気づいていたり。自分はおかしくなってしまったかも?という、本人的にも辛い段階が必ずあります。

 

我が家の身内にも起きたことで、見慣れた、聞き慣れた光景だったので、しばらくぼんやりと聞き入ってしまいました。

 


そうこうしていると、自分の予約時間が近づいてきたので産科のフロアへ。

 


産科は小児保健科と同じ待合のため、毎回1か月健診の赤ちゃんと親御さんも次々にやってきます。

 


病院のコットに寝かせられた本当に小さな小さな赤ちゃん。泣く声もふにふにといった感じでなんだか虫みたい。かわいくてついつい見入ってしまいます。

 

斜め前の長椅子に、赤ちゃんとママ、おばあちゃま、上のお子さん(幼稚園生くらいの女の子)の4人連れがいました。やはり赤ちゃんは小さくてふにふにと泣いています。ママやおばあちゃまはもちろん、近くにいる人みんなが赤ちゃんに夢中で見とれています。

 


そんな中、赤ちゃんのお姉ちゃまである女の子、終始大きな声で歌いながら待合スペースを走り回ったりスキップしたり、どんなにママが「静かにして」と言ってもやめません…。

 


女の子はママの注意を自分に引きつけておきたくて必死です。その姿がなんとも意地らしく、切なくて、私はなんだか気づかぬうちに涙が出てしまいました。

 


ただ、声のトーンや走るスピードが次第にエスカレートしていき、ママとおばあちゃまの両方が最終的にはピシャリと叱り、女の子はママの胸に抱きついてわんわんと泣いていました。


ママは彼女を膝に乗せて、しっかりと抱きしめていました。お母さんですもの、上の子の状況だってそりゃ全部分かっていますよね…。


一方で、お姉ちゃんになったこの女の子は、自分に沸き起こっている感情がなんなのか、まだ頭では理解できていないことでしょう。でも、今までと何かが決定的に違うことには気がついていて、とても不安で焦っているんだと思います。健気ですね。

 

 

 

今日の出来事。

何かオチがあるわけではありません。

ここに出てきた人、誰一人として悪くないですよね。みんな、自分の今を精一杯生きている。

 

 

病院って、なんだか人生や社会の縮図のように感じることがあります。

 

今日はそんな終わり方です。

 

35週目

いよいよ今週末からは臨月です。

 

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